アジャイルとスクラム開発を手っ取り早く理解する

職場での現状のスケジュール・タスク管理方法に課題感を感じて、スクラム開発を取り入れられないかと思い、著名な本を読み漁ってみた。 手にとったのは以下の3冊(『スクラムガイド』は無料 PDF)で、上から順に読んだ。 絵が多くイメージしやすい『SCRUM BOOT CAMP THE BOOK』から読み始めたことで、あとの2冊もすんなり理解できて結果的に良い順序だったと思う。

SCRUM BOOT CAMP THE BOOK

SCRUM BOOT CAMP THE BOOK

スクラムガイド
アジャイルサムライ−達人開発者への道−

アジャイルサムライ−達人開発者への道−

実践していくために重要になると感じたポイントをまとめてみた。

アジャイルスクラムの関係

アジャイル開発の1手法として、具体的な作業、会議、成果物を定めたものがスクラム。 他にもエクストリーム・プログラミング、リーン、カンバンなどがあり、また独自の手法で取り組んでもよい。

では、アジャイルとはそもそも何だろう? アジャイルソフトウェア開発宣言アジャイルソフトウェア開発の12の原則 を読もう。

原則後戻りしないウォーターフォールに比べ、目的達成のための道筋は柔軟に対応するのがアジャイルとざっくり理解。 アジャイルのプロジェクト成功率はウォーターフォールより3倍高いという研究結果も出ている。 *1

今や旧態依然の大企業やSES企業でなければ、アジャイル手法は部分的にでもたいてい取り入れられているのでは。

スクラム手法

スクラムチームと、スクラムの進め方(スプリント)をざっくりイメージし、それがアジャイル原則にどう従っているのか対応づけて整理してみる。

なお、★ は作成物、■ はスクラムイベント(会議体)、● はロールを示している。

スクラムチーム

よし、スクラムを始めるぞ!となったらまずはロールと、プロダクトバックログから整えるとよさそう。

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★ プロダクトバックログ

プロダクトへの要求をリストにして、優先順位で並び替えたもの。 ToDo リストのこと。エクストリーム・プログラミングでは「マスターストーリーリスト」とか「ユーザーストーリー」と呼ぶ。

● プロダクトオーナー

プロダクトバックログの管理者で、並び順を最終決定する権限を持つ役割(ロール)。プロダクトの結果責任を持つ。 プロダクトに必ず1人。プロダクトができたらレビューをもらう「顧客」となる。

● 開発チーム

プロダクトを作るために必要なすべての作業をするロール。スクラムでは3〜9人としている。 分析や UX デザイン、設計、コーディング、インフラ、テストなどを明確な役割なく、機能横断的なメンバーで構成し、上下関係は無し。 開発チームはチーム全体で責任を持って作業を進める自己組織化されたチームとして動く。

スクラムマスター

プロダクトバックログの要求を実現するプロダクトを作っていくために、後述するスプリントやデイリースクラムなどの、プロダクトオーナーや開発チームの活動を支えるロール。 スクラムアジャイル開発をまわりの社員、ステークホルダーに理解・実施してもらう組織的な動きも求められる。

● その他の人たち

営業や上司など。現実的には期日やコストなどの都合で介入されることも多そう。 スクラムチームのロールではないが、プロダクトバックログの追記は許可される。 経験上スクラムチーム外だけど時に口を挟みたい人はいるもので、決して蚊帳の外ではないんだということは誤解されないようにするべきだと感じて記載した。

スプリント:プロダクト開発の進め方

固定の期間(スプリント)を区切って、繰り返し開発を行うのがスクラムでのプロダクト開発の進め方となる。 アジャイル宣言ではこのサイクルは2-3週から2-3ヶ月とされているが、スクラムでは1週間から最長1ヶ月とされている。

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★ スプリントプランニング(スプリント計画ミーティング)

各スプリントの頭で、プロダクトオーナー・開発チーム・スクラムマスターは、何を作るのか?(What)と、どのように作るのか?(How)を計画する。 プロダクトバックログの上から順に今回の開発対象とする項目を検討し、過去のスプリングの実績(ベロシティ)から開発できる量に収まるように選択する(スプリントゴールを決める)。 選択したものは、開発チームがプロダクトバックログを具体的なタスクに分割し、必要なすべての作業を洗い出し、見積もる。

★ スプリントバックログ

スプリントプランニングで決めた、今回のスプリントで行うタスクの一覧をスプリントバックログとしてまとめる。

★ デイリースクラム

開発チームで毎日15分、集まって以下のことを報告する

  • 私が今日やったこと
  • 私が明日やること
  • 困っていること
★ インクリメント(リリース判断可能なプロダクト)

スクラムでは、スプリント単位でリリース判断可能なプロダクトを作る。 いつでもリリースできる品質を満たしたプロダクトを作るには、実装してコードレビューやテスト、ドキュメント、セキュリティ、パフォーマンス検証など済ませておく必要がある。

■ スプリントレビュー

スクラムチームとプロダクトオーナーが招待した重要なステークホルダーが参加し、インクリメントをレビューする。 開発チームは動作するプロダクトをデモして、プロダクトバックログの項目通りであれば完了にし、依頼したものと異なればプロダクトバックログに戻す。 プロダクトオーナーはプロダクトバックログの現状を説明し、チームで次に何をすべきか議論する。

インセプションデッキ

スクラム手法を学ぶと、思ったよりシンプルで、実践して上手く回る未来が描ける気がする。 でも、スクラム手法に取り組んでいないチームは「よしスクラムやるぞ」とトップダウンでヨーイドンしない限りハードルも高そうだと思ってしまった。

そんな時に、『アジャイルサムライ−達人開発者への道−』第3章「みんなをバスに乗せる」はとても参考になった。

プロジェクトに対する期待をマネジメントするためのすぐれたツール「インセプションデッキ」が紹介されている。 プロジェクトメンバーが同じ方向を向くように、まずはインセプションデッキの10の設問に答え、それを出発点にしよう、というもの。

インセプションデッキの 10 の設問

  1. 我われはなぜここにいるのか(Why1)
  2. エレベーターピッチを作る(Why2)
  3. パッケージデザインを作る(Why3)
  4. やらないことリストを作る(Why4)
  5. 「ご近所さん」を探せ(Why5)
  6. 解決案を描く(How1)
  7. 夜も眠れなくなるような問題は何だろう(How2)
  8. 期間を見極める(How3)
  9. 何を諦めるのかをはっきりさせる(How4)
  10. 何がどれだけ必要なのか(How5)

おわりに

書籍からのインプットはひとまずこの程度に、まずはプロジェクトのインセプションデッキ・プロダクトバックログの整理などできる所から取り組んでいこうと思う。

保守フェーズのプロダクトと新規プロダクトが混在していてプロダクトオーナーが複数いる、スクラムマスター有資格者や経験者がいない、すでに分業が進んでしまっている(メンバーの機能横断性が低い)など、本格的にスクラムに取り組むのは難しそうな状況もチームによっていろいろあると想像するが、まずは本を片手に部分的な導入からはじめ、もし進展や新たな気付きや学びが生まれればまたブログに投稿したい。

『スタートアップウェイ』を読んで

スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

スタートアップ・ウェイ 予測不可能な世界で成長し続けるマネジメント

感想

エリック・リースが GE(ゼネラル・エレクトリック)でリーン・スタートアップやってみた、という内容が主。 GE も GAFA に対する危機感が強いようだ。 エリック・リースに学んだ「ファストワークス」GE社員33万人に浸透するためのカギは? | GE変化の経営 | ダイヤモンド・オンライン

この本のようにマネジメントを実践すれば、日本の企業も持続的に成長できるのか・・・?懐疑的な部分もある。 なぜなら、リーン・スタートアップが米国ではすでにかなり浸透しているという前提があるため。 イノベーションを起こす取り組みはリーンで、と当たり前のように実践されていて初めて、それを大きな組織の枠組みでも実践していく時に壁に突き当たった時に、この本が真の価値を生むように感じた。逆に言えばその前提が整っていない人や企業には、レベルが飛躍していて難しいのではないか。

起業家やベンチャー企業で働いた経験のある人が、これからの先進企業の基礎を作っていく(作り変えていく)ということ。 単純にその人数が多ければ多いほどスピードに寄与するだろうし、米国と比較して現状日本はかなり劣る部分だろう… 危機感を感じる。

以下に要約をまとめたが、直訳的な表現が多くてなかなか読み解き辛く、要約しづらいところは本の表現を自分なりに解釈して変えた箇所も多々ある。

要約

著者はリーン・スタートアップ提唱者のアメリカの起業家エリック・リース氏。

グローバル化と新技術の浸透スピードの速い現代では、「計画と予測」の従来型マネジメントは大企業病への道を辿ってしまう 。 2008 年に提唱されて以降、リーン・スタートアップはスモールチームだけでなく、GEやトヨタといった巨大な企業や官僚企業などあらゆる組織で、イノベーションのジレンマ打破のために取り組まれてきた。

これまでの取り組みを見守ってきた著者は、組織の持続的成長のためには 「速さと不確実性」を前提とするアントレプレナーシップ をマネジメント原則とすることが必要だと気付く。本書では、それを先進企業のマネジメント理論「スタートアップ・ウェイ」として体系立てられたものである。

「スタートアップ・ウェイ」の5つの原則

「スタートアップ・ウェイ」は5つの原則から成る。

  1. 全組織の人材と創造性を活用し、イノベーションを起こすブレークスルーの発掘に取り組むべき
  2. 1 に取り組む実験チームを 社内スタートアップ として持つべき
  3. 2 を管理するための アントレプレナーシップ機能 を持つべき
  4. 3 は、創業年次に関わらず組織構造を変える、再創業に等しい大きな取り組みと心得るべき
  5. 4 に継続的に取り組むために、企業は「新たな課題に直面するたびに組織の DNA を書き換える能力」を持つべき

変革の進め方

このスタートアップ・ウェイに基づき、実際に組織改革を進めるためにはどうすればよいか。

  • 変革を 「3つのフェーズ」 に分けて捉え、組織スケールなど状況に応じて柔軟に目標設定や動き方を変えて進めるべき
  • 早期の成果を先行指標で正しく評価するための 「革新会計」 を導入するべき

という大きく2つの進め方が提示されている。

3つの変革フェーズ

本書では変革を 「3つのフェーズ」 に一般化して、チームレベル/部門レベル/組織体レベルの各組織スケールで事例や指針が示されている。 前提として、組織の様々な状況に応じて適したやり方が異なり、実例を真似するのではなく展開を想定する地図として用いるべきである。

  1. クリティカルマスのフェーズ

    実験、適応、解釈によって基礎を作る時期 。成功談を積み重ね、そのやり方を全社に拡大しようと幹部に思ってもらうことを目標とする。 チームレベルでは、スモールチームで Product/Market Fit を進める。部門レベルでは、社の方針を外れることを許してもらうために幹部少数を後ろ盾として巻き込む。組織体では、何をもって成功として次のフェーズに進めるか経営幹部に承認を取り付ける。

  2. スケールアップのフェーズ

    組織内で勢力を拡大し、文句や抵抗が噴出する中で政治的力を得て乗り越える 時期。 チームレベルでは、人数拡大・仕組み化を進める。部門レベルでは、幹部全員に新しいやり方を学習・理解してもらう。組織体レベルでは、変革のための組織を作り、指導者育成や財務と(責任を伴う)権限委譲を仕組み化する。

  3. 深層の仕組みのフェーズ

    変革を継続できる組織的能力を醸成する時期。 チームレベルでは、自社のやり方としてツールや研修を全チームに提供する。部門レベルでは変革ためのアクションを幹部全員に義務付ける、組織体レベルでは報酬・昇給や財務・法務などの組織の根幹にまで浸透させる。

革新会計

「革新会計とは、普通の会社で使われている評価基準(売上、顧客、ROI、市場シェアなど)がすべてほぼゼロのとき、前進度合いが評価できる手法である。」

一般的な企業の財務では、全体的な数字が小さい早期に、有望そうな結果は出ていても数字が小さすぎるとスタートアッププロジェクトを切ってしまう。 そこで、その早期に成果を正しく評価する手法として、革新会計をスタートアップチームに用いるべきである。

革新会計も以下の3レベルに分け、段階的に導入していく。

  1. ダッシュボード

    顧客1人当たりのデータを追う。コンバージョンレートや顧客ひとり当たりの売上や生涯価値、コスト、定着率、紹介率などをダッシュボードにする。 ROI、市場シェア、利益率などの財務目標は追わず、時間とともに改善している評価基準を問う。

  2. ビジネスケース

    ダッシュボードの評価基準を、事業計画から導かれた要となる仮説と1対1で対応させる。 顧客が素晴らしい製品だとおもっていることを示す行動として、リピート率、継続率、プレミアム価格の支払い意思、紹介などの行動を測定するものにすべきである。

  3. 正味現在価値

    データが得られるごとにビジネスケースを再計算し、学びを換算することを目標とする。 コンバージョンレートの変化などを事業計画に反映させ、将来のインパクトとキャッシュフローなど財務的価値に換算する。

また、革新会計に基づく資金提供や事業継続判断を担う「成長委員会」を置き、スタートアップチームの推進を支援する必要がある。

「スタートアップウェイ」のビジョン

今でも新規事業や新製品開発、社内の人事制度やITシステム導入、M&A社内ベンチャー設立など組織再編・変革に携わる人は多いが、共通点が多く、アントレプレナーシップ機能として一元管理すべきである。 アントレプレナーシップ機能担当を定め、アントレプレナー型人材のキャリアパス・トレーニング制度を組織として提供していく、そしてそれ以外の人材・組織にもアントレプレナー人材を配置・教育して、アントレプレナーシップを組織全体に浸透させていくことが大事。

「社員全員にアントレプレナーとなるチャンスを提供し、進化の種をまくマネジメントシステムが、スタートアップ・ウェイの神髄だ」

おわりに

4時間かけて一通り読み、このブログをまとめるためにさらに4時間ほどかけて読み直した。

最初のブログ投稿はビジネス書レビューになったが、Web アーキテクチャスタイルやスクラムアジャイル、日々開発で触っている Rails やプライベートで取り組む予定の Swift(iOS アプリ開発)など、これから学びつつブログにまとめていこうと思う。

エリック・リースに学んだ「ファストワークス」GE社員33万人に浸透するためのカギは? | GE変化の経営 | ダイヤモンド・オンライン